なかに、こんなおたよりがありました。
私のおすすめは「らくごカフェ」です! こちらは二ツ目から真打までさまざまな落語家、講談師などの会が開催されている場所です。
私のおすすめは毎月すぐソールドアウトの柳家わさび師匠の「月刊少年ワサビ」、3ヶ月に1度くらいの開催の蜃気楼龍玉師匠「いぶし銀の会」、隅田川馬石師匠の出演会、三遊亭天どん師匠の火曜会。歌がおききになりたければ、柳家こみち師匠や柳家小せん師匠がおすすめです。ぜひらくごカフェ体験してください。(ふなちゃん)
らくごカフェ‥‥落語がきけるカフェ。なんだか神保町らしい気がします。この「神ブラ」シリーズをたちあげるにあたり、以前から我々ほぼ日乗組員が憧れ「いつかご出演いただきたい」と願っていた落語家さんに思い切ってお声がけしたところ、「神田神保町といえば、らくごカフェってところがあるんですけど」とおっしゃるではありませんか! その落語家さんとは、柳家喬太郎さんです。
柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)
1963年東京生まれ。1989年に柳家さん喬師匠に入門。2000年真打昇進。1998年NHK新人演芸大賞落語部門大賞、2006年芸術選奨文部科学大臣新人賞【大衆芸能部門】など受賞多数。新作古典ともに得意とする。
現在も柳家喬太郎さんの落語を生でたのしめるチャンスがあります。活動については落語協会の紹介ページをごらんください。
喬太郎さんと、らくごカフェや神田神保町交差点あたりを散歩しつつお話をうかがいました。そのようすを今週から数回にわたりお届けいたします。
――:
喬太郎さん、今日はよろしくお願いいたします。喬太郎:
よろしくお願いします。
――:
気軽に落語がきけてお茶やお酒も飲める、こんないいところがあるなんて、青山から越すのがたのしみです。
喬太郎:
ここはごらんのとおり、お客さまが近くてね、初心を思い出すようでうれしい場所ですよ。
飲食店で落語会ってのは、じつは昔からたくさんあるんです。寿司屋でやろうよ蕎麦屋でやろうよってこともありますし、バーでやったこともあります。けれども、落語に特化して、落語ありきでもってカフェはじめようよってのは、ここのオーナーさんがはじめてだと思います。
ふだんはお茶もお酒も飲めますよ、時間が来たら落語会がありますよ、ってところは、ほかにはたぶん‥‥ないんじゃないかなぁと思います。ここ神保町で、かれこれ10年以上続いてて、若手もずいぶんお世話になってきました。
――:
場所は「神田古書センター」のビルの5階ですね。
喬太郎:
オーナーの方が神保町を選んだ理由、何かあると思うんですよ。場所の候補はほかになかったわけじゃないと思う。いま、話してて思ったことなんですけど、神田神保町を選んだことが、もしかしたらここの成功の理由なんじゃないかな。
「神田古書センター」という名のとおり、ビルには古本屋さんが入ってて、まわりも古本屋さんがたくさんある。しかし神保町は本屋さん以外にも、たくさんの文化がある街です。
食いものもそう。学生さんが多くて、お勤めの方も多い。楽器屋さん、スポーツショップ、水道橋に行けばドームもある。
そういうなかにこういった場所があるのがとても自然でね、お客さんも来やすいんじゃないでしょうか。さらに絶妙なのが、演芸場のある新宿池袋上野浅草、どこからみても距離があるってこと。「神保町よしもと漫才劇場」もあるけど、やってることは別だから、お客さんを取り合わない。
神保町はどこからも来やすいところです。水道橋からも御茶ノ水からも歩けるし、終わったあと飲んでも帰れて、昼間はプラプラ歩ける。とにかく「ちょうどいい」場所です。
――:
神田神保町といえば、喬太郎さんは最初の就職が、落語家さんではなく本屋さんだったんですね。喬太郎:
そうなんです。大学には5年行きましてね。落研にいましたが噺家になるつもりはなかったです。大会で自作の新作落語で2度優勝して、そこでちょっとだけグラッときました。
けれどもぼくはいちファンとして、落語を好きすぎたんです。落語家さんは憧れの存在。「あっち側の人」だと思いたかったんでしょうね。自分がまさかそんな世界に足を踏み入れてゴハン食べてけるなんて考えられない。大会で優勝していい気になっちゃうなんてことがあったらいけない。まぁ、なにごとも「飛び込んでく」ってのは情熱なんでしょうけれども、ぼくは当時、本にかかわる仕事もしたいと思っていたので、福家書店というチェーンに就職しました。
将来は自分の店を持つのが夢でした。売り場にはもちろん売れ筋はほしいですが、ほとんど動かないような本ばかり並ぶ棚もあるような、わがままな品ぞろえ。そんな夢があったんですけど、そのうちどうしても噺家になりたくなって。
福家書店にいたのはたったの1年半です。その後噺家になって、前座の頃とかね、フラッと書店に入るでしょ? 書店のお客さんって、立ち読みしたあと棚に戻すんだけど、まぁ、ちゃんと戻さないことも多々あるわけですよ。そうするとちょっとイライラしてきちゃって、「松本清張はこっち、さらに新潮はこっちだろう!」ってなっちゃう(笑)。
あとね、本屋さんの入口で本が平積みになっているところ、ありますよね。売れ筋が真ん中にあると、お客さんがそこから取ってくから陳列台に穴があいちゃうんです。「俺だったら! まず手前どかして、売れるやつを手前! 少ないのは手前に置いとかないと本が取りにくいし、取ろうとして本の端っこのところを爪でどうにかしちゃうじゃない!」そういうことばっかり気になっちゃって‥‥だからずいぶん前から、あんまり本屋さんに行かなくなりました。
――:
えぇ?! 喬太郎さんに、神保町の書店めぐりについて伺おうと思ったのに。喬太郎:
本も読まなくなりましてね。不思議なものでねぇ、書店員になってからというもの、読まなくなりました。大好きなものを仕事にしちゃうと、手放しで大好きって、言えなくなっちゃうのかもしれません。
――:
ああー。喬太郎:
「噺家になんかならなきゃよかったな」って、ずいぶん思いましたし。
――:
落語ももう、手放しでは‥‥。喬太郎:
ええ、手放しでは‥‥(笑)。
(来週に続きます。来週は、喬太郎さんがやってみたい「食堂飲み」についてうかがいますよ)